二万ヒット記念特別号Part7 あいつはいつも楽しそうだった。いつも……、そう、いつもだ。うつむいている姿を見たことがない。江志摩 勝志といったか。覚えていないのだ、あまり深く関わってないから。陰から見る限り、少なくともそう見えた。……奇遇なのか、そのジンクスは崩れた。砕け散りそうな、彼の顔。結構離れたこの場所からでも、その表情をうかがえる。怖いくらいに、その表情はすさまじかった。さらに彼は、空に叫ぶ。しなやかに降る雨を、はじきかえすかのように。既に彼の服は雨に染まりきっている。背中には、怒気、悲哀、後悔さが伺えた。空は、彼に微笑まない。ただ、何も起きていないかのように、雨を降らす。近くには誰もいない。――つい、彼のそばに行きたくなる。手を触れさせることすら拒むそのオーラは、そんな僕の衝動を一蹴した。止まらない彼の涙を、少しでも分かることができたら……。何があったのだろう……。二階の窓から、僕は彼を見つめる。……盗み見をしている気分になってきた。寝つきが悪いだろうな、今夜は。ノロリと、僕は窓を離れた。はっきり言って、自分が悔しかった。――非力だ。膨らむ衝動を、悲しんでいる人の力になれないのだから。変なことだと思う。本当ならば、彼と僕は無関係なのだから。窓が、風に吹かれてガタガタとゆれる。……見なければよかった。むしろ、見てはいけなかった。めったに、こんな時間までいることはないのだが……。もっと……僕が早く帰っていればよかったのだ。やがて、彼の叫びだけが響いてきた。許せないのだろう。よほど……自分自身が……。雷光が、校舎を貫く。理解することができる日は……来ないのだろうな……。流浪した彼のプライドは、彼すら、理解することは難しいかもしれない。劣化した窓ガラスは対角線上にヒビが、いっているに。……ろくな事ではない。割れたそのガラスが、彼の心に見えただけだ……。 ジャンル別一覧
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